環境プラント工業xHAPILYインタビュー - zoom画像

企業のDX推進において、8割以上のプロジェクトが当初計画から大幅な遅延や予算超過を経験している。
システム開発の迷走、現場の抵抗、ROI不明という三重苦に陥り、
「デジタル化すれば業務は改善される」という幻想が企業を混乱に導くケースが後を絶たない。

しかし、この難題に真正面から向き合った2人がいる。
環境プラント工業の阿古江大樹氏と、弊社の下島海星だ。

2年半のシステム開発迷走を経験し、現場の混乱を収拾した阿古江氏。
現場密着型のアプローチで企業変革を支援する下島。

立場は異なれど、2人がたどり着いた答えは明確だった。
DXの成功は、システムではなく「人」にある──。

対談者プロフィール

阿古江大樹氏(環境プラント工業株式会社)
ペットフード事業の現場責任者として、2年半にわたるシステム開発の迷走を経験。
前任ベンダーの破綻により一時は八方塞がりの状況に陥ったが、現場オペレーターとの信頼関係を武器に組織変革を主導。
「作業者目線」を大切にしながらも、経営視点での判断力を身につけ、業務効率化と顧客サービス向上の両立を実現した。

下島海星(株式会社HAPILY)
現場密着型のアプローチで大企業から中小企業のDXを支援するコンサルタント。
「まず現場を見る」をモットーに、2日間の現場張り付きから信頼関係を構築。
業務効率化と売上最大化の両立を追求し、デジタル化の一方的な押し付けではなく、企業の強みを活かした変革設計を得意とする。
目的からブレない一貫した姿勢で、現場の意識改革を実現している。

■ はじめに:破綻からの再出発

──阿古江さん、2年半のシステム開発迷走とはどのような状況だったのでしょうか。

阿古江 前任のシステム開発会社が、もう本当にひどい状況でした。
納期は延びるわ、言っていたものと違うわ、契約書通りの対応は一切しないわで、
「この会社、大丈夫かな」と不安になっていたところに、会社の雲行きが怪しくなってきて。
最終的に「作れません」となってしまったんです。

下島 その状況でHAPILYにお声がけいただいたわけですね。
最初にお伺いした時の印象はいかがでしたか?

阿古江 率直に言うと、前のベンダーが専門用語や横文字でとにかく煙に巻くタイプだったので、またそういう人たちが来るのかなと身構えていました。
でも、下島さんと長谷川さんは「とにかく現場を見ましょう」と言って、すぐに駆けつけてくれた。
2日間、オペレーターの間に座って、実際の業務を見てくれたんです。

下島 現場を見ないと、本質的な課題は見えませんからね。
実際に作業している方々がどんな思いでどんな業務をされているか、それを理解することから始めなければ、どんなシステムを入れても意味がないと思っています。

阿古江 あの時、私の上司も含めて「この人たちは信頼できる」と感じたのを覚えています。
現場との向き合い方が、まったく違いましたから。

■ 信頼関係の構築術

──下島さん、最初の2日間の現場張り付きはどのような狙いがあったのですか?

下島 僕は基本的に「なんでこれしてるんだろう」というのが理解できないと、それをなくせばいいじゃんという考え方なんです。
現場を見ずに提案しても、結局は机上の空論になってしまう。
実際にお伺いした時も、やることがいっぱいあるなと感じました。

阿古江 あの時、下島さんが「なんでこれやってるの?」とストレートに聞いてくれたのが印象的でした。
私たちも慣習でやっていることが多くて、改めて問われると「確かになんでだろう」と思うことばかりで。

下島 オペレーターの方々との関係構築も意識していました。
2人いらっしゃいましたが、それぞれ全然違うタイプの方だったので、接し方も変えていましたね。
積極的に話しかけるタイプではないので、この人はどういう接し方をしたらもっと課題を聞けるのかなと、それぞれに合わせて工夫していました。

阿古江 それが功を奏して、
後半になってくると作業者レベルの人が「これいらなくないですか?」と自分から言うようになったんです。
最初は私たちが「これって必要ですか?」と聞いていたのが、逆に現場から改善提案が上がってくるようになった。

下島 そうですね。
意識が変わってきたのがすごくいいポイントだったと思います。
阿古江さんとは価値観が似ているなと感じて、雑談ベースでも認識を取りやすかったのですが、やっぱり人によって全然違うので、そこは大切にしていました。

■ 意識変革のターニングポイント

──現場の「変わりたくない」から「変わりたい」への転換点はどこにあったのでしょうか?

阿古江 決定的だったのは、HAPILYさんに実施していただいた法的コンプライアンスの講習会ですね。
リニューアルの半年ぐらい前だったと思います。
そこで、うちの運用の遅れが一気に露呈したんです。

下島 あの時はやばそうな雰囲気を感じました(笑)。

阿古江 本当にやばかったんです。
法律的なところでも、トレンドの部分でも、ECサイト運営という観点で見た時の世間的な基準と比べて、
うちがどれだけ遅れているかが明確になってしまって。
私の上司も含めて「これは本当にやばいな」と思ったのがターニングポイントでした。

下島 それまでは比較的ゆるく見ていたけれど、客観的な基準と照らし合わせることで課題が明確になったと。

阿古江 そうです。
オペレーターも、私の部下も上司も、もっと言えばうちの社長なんかも、
あの講習会で「これはやばい」と認識を共有できた。
それ以降、私自身も現場レベルでの判断から、事業全体を見た判断ができるようになってきたと思います。

下島 阿古江さんが、
「現場では大事だけど、本質から見るとここはいらないと思います」という会話をするようになったのは、まさにその頃からでしたね。

阿古江 入社当初は現場の人にいい格好したくて、何でも対応しちゃっていたんです。
でも、全体最適を考える視点を持てるようになった。
あれが本当のターニングポイントだったと思います。

■ デジタル化と人間味の両立

──今回のDXプロジェクトでは「紙の温かみ」を残すという判断をされました。
なぜでしょうか?

下島 これは結構他とは違うポイントだったと思います。
一般的なDXって、どれだけデジタルに変えられるかという観点が大きいんですが、
今回は紙のまま残しましょうという部分を結構取り入れたんですよね。

阿古江 ドッグフードの中に入れている初回のお客さん向けカタログなどは、デジタル化できる部分ではあったんですが、
やはりお客さんに読んでほしいものだから、紙で残すことにしました。

下島 実は僕も実際に体験してみたんです。
今の嫁がわんちゃんを飼っており、そのまま一緒に育てているので、ワンフーさんの製品を購入して。
やっぱりこれいいよなと思える部分があったんです。
そういうデジタルじゃない部分のハードな部分や思いを残しながらDX化したのは、他とは違う取り組みだったと思います。

阿古江 大きなサービス変更をそれほどすることなく移行できたのは良かったですね。
定期のお客さんも継続していただけましたし、
ポイント制度の変更はありましたが、既存のポイントがなくなることもありませんでした。

下島 ワンフーさんには本当にコアなファンが多いんです。
そのコアファンが付いている要因や強みの部分は、DXでも意識して残そうと。
ここは無駄じゃないかという選択をかなりしました。

阿古江 リニューアルって、普通はガラッと変わると思うんですが、
変わってないからこそ、商品の軸がブレずにサービスを提供し続けられているのかなと思います。

■ 「痛みを伴う変革」の乗り越え方

──プロジェクト中で最も困難だった局面はどこでしたか?

阿古江 チームの「今のままでいい」という声をどう乗り越えるかでしたね。
何かを始める時って、元々ある業務をやりつつ新しいことをやらないといけないから、
仕事量が倍ぐらいになるじゃないですか。
現場からは「なんで新しいことやるの?」という反応もありました。

下島 スコープが大きいのは最初から分かっていたので、
もう少し主導的に早めにB2B部分を延期しましょうという判断ができれば良かったんですが、
ギリギリのタイミングになってしまって、現場を混乱させる要因になってしまったのは反省点ですね。

阿古江 最後は泣き落としみたいになりましたよ(笑)。
「もうお願いだからやってよ」って。
でも、人間関係や信頼関係がなかったら「しょうがないね」とも思ってもらえないので。

下島 人海戦術と仕組み化の使い分けは常に意識していました。
リモートでできることもリモートでやりたいって思う人もいると思うんですが、やっぱり足を運ぶべき時は足を運ぶ。
目的である売上拡大と業務効率化に本当に結びつくのかを常にベースに判断していました。

阿古江 結果的には、この痛みを伴う変革を走り切ったことで、みんなハッピーになりましたから。
全体最適を決められるのは責任者だけなので、強い意思を持ってやり遂げることが重要だったと思います。

■ 成果と未来への展望

──1年半を振り返って、どのような成果が得られましたか?

阿古江 一番実感しているのは作業量が明確に減ったことです。
ホームページや楽天などのモールからの注文取り込みで、人の手がかからなくなりました。
かかりはするんですが、大幅に減った。
それと、1日作業すれば分かるという状況、つまり誰でもできる状況が作れたのは非常に大きいですね。

下島 現状を点数で言うと、どれぐらいでしょうか?

阿古江 正直に言うと、100点のうちの80点行ければいいよねぐらいの想定だったんですが、そこは着地できたかなと思っています。

下島 僕は辛口で60点ぐらいかなと思っています(笑)。
というのも、もともとプロジェクトで定めていたスコープから外している部分があるのと、
まだ特殊な案件でオペレーターの方々が全部自分でさばききれない部分が残っているので。

──100点を目指すには、どのような取り組みが必要でしょうか?

下島 僕が描いている理想像は、今オペレーターの方がやられているカスタマーサポート的な業務から、カスタマーサクセスへの進化です。
お客さんの課題を聞きながら、売上向上や顧客体験価値をオペレーターの方々が生み出せる状態になることが100点だと定義しています。

阿古江 そのためには、経理も巻き込む必要があると思っています。
可能であれば2年以内には、経理の部分も含めて100点の状態に持っていきたいですね。
ポテンシャルは間違いなくあるので。

■ 現場巻き込み型DXの本質

──他社のDXプロジェクトと比べて、独自化ポイントはどこにあると思いますか?

下島 今回のプロジェクトは、単純な業務効率化ではなく、事業としてサービスとしての強みを考えたDX化だったと思います。
業務効率化の目的に対して、もっと売上を上げるという視点でのシステム業務効率化を考えた。
多分、他社や大手企業でも、ここまで事業の本質を意識したプロジェクトはあまりないんじゃないでしょうか。

阿古江 切り捨てようと思ったら、もっと切り捨てられましたからね。
でも、あえて人的な部分や温かみのある部分を残した。
これが結果的に、お客様から見てそれほど変わらずにサービスを提供し続けられた要因だと思います。

──DXにおいて「管理強化」はどのような意味を持ったでしょうか?

阿古江 最初は管理を強化することで現場の自由度が下がるんじゃないかと心配していました。
でも実際は逆でしたね。
ルールが明確になったことで、現場のメンバーがより積極的に改善提案をするようになった。

下島 そうですね。
管理は現場の敵ではないというのが、今回の大きな発見でした。
むしろ、経験がない人でも判断できる基準値やルールがあることで、現場の人たちがもっと創造的な仕事に集中できるようになった。

阿古江 中小企業のDX成功に必要なのは、やはり覚悟だと思います。
① 痛みを伴う変革を走り切る強い意思。
そして、
② 現場を置き去りにしない仕組みづくり。
この2つがあれば、必ず成功すると確信しています。

【現場を置き去りにしないDXが、企業の未来を決める】

阿古江氏と下島の1年半にわたる取り組みが証明したのは、
DXの成否を分けるのは技術ではなく「現場との向き合い方」だということだ。

システムを導入すれば業務が自動的に改善されるという幻想は、もはや通用しない。

真の変革は、
現場の一人ひとりが「なぜこれをやっているのか」を理解し、自ら改善を提案できる組織文化を築くことから始まる。

環境プラント工業が実現した成功には、3つの重要な法則がある。

第一に、現場との徹底的な対話。

下島氏が2日間現場に張り付き、オペレーターそれぞれの個性に合わせた接し方を工夫した。
このように一人ひとりの声に真摯に耳を傾けることが信頼関係の土台となる。

第二に、外部視点による現状の客観視。

法的コンプライアンス講習会がターニングポイントとなった。
内向きになりがちな組織に客観的基準を導入することで、真の課題が浮き彫りになる。

第三に、デジタル化と人間味の絶妙なバランス。

業務効率化を追求しながらも、顧客が大切にする価値は守り抜く。
このジレンマを解決できるかどうかが、競合他社との決定的な差となる。

環境プラント工業xHAPILYインタビュー - 現場を置き去りにしないDX

そして最も重要なのは、「DXは終わりなき改善プロセス」だという認識だ。

現在60点から100点を目指す同社の継続的な取り組みは、
変革が一過性のプロジェクトではないことを物語っている。
カスタマーサポートからカスタマーサクセスへの進化構想も、
現場の成長と事業発展を同時実現する持続可能な変革モデルといえるだろう。

企業のDX成功に必要なのは、最新技術への投資額ではない。
「痛みを伴う変革」を走り切る担当者(イノベーター)の覚悟と、
現場を置き去りにしない仕組みづくり
──この2つが揃った時、真のデジタル変革が始まる。